教科・領域教育専攻 国際教育コース L3年 辻 彩
教科・領域教育専攻 国際教育コース L2年 北野 香
人間教育専攻 幼年発達支援 L2年 松下 明日香

1.はじめに

セネガル共和国は,西アフリカ,サハラ砂漠西南端に位置する国であり,Education For Allダカール枠組み条約を締結した地としても知られる国である。人口約1310万人のうち,約95パーセントがイスラム教徒(ムスリム)である。公用語としてフランス語,ウォロフ語が指定されているほか,各民族の言語が生活では使用されている。私たちは,2014年3月3日(月)から3月28日(金)まで,国際協力機構(Japan International Cooperate Agency,以下JICA)大学連携短期ボランティア派遣を通じて,セネガル共和国カオラック県カオラック市おいて教育支援活動を行った。配属先のカオラック市教育委員会は,市内の教育行政を担う機関であり,幼稚園,小学校,中学校を統括している。同教育委員会のJICAの援助受入れはこれまでもあったが,今回のような短期派遣の隊員は初めての受入れとなった。

私たちの主な活動内容は,既に長期隊員として現地で活動されているAさんの補完役として現地の幼児教育活動を支援することであった。Aさんは,日本の幼稚園教諭として勤務した後,JICAを通じてセネガル共和国の教育活動に参加していた。隊員の任期2年間のうち,既に1年以上現地の幼稚園4園で教員への助言や教育活動を続けている。1週間のうち月曜日から金曜日までの週5日が活動日であり,1日1園を目安に毎日ローテーションしながら活動を続けていた。

2.活動先の幼稚園の様子

幼稚園4園の概要を紹介する。I幼稚園は,年長の1クラスのみを設置しており,児童数は40人の小規模な園であった。園は小学校の1室に設置されており日本の幼稚園とは異なり建物の外壁には飾りやペイントなどはなく,非常に簡素な建物の中にあった。円は,担任教員1名,補助教員1名の合計2名で運営されていた。園長は,小学校校長と兼任であった。

B幼稚園,P幼稚園は,ワッド前大統領の政策で設置された幼稚園である。そのため,B幼稚園とP幼稚園の建物は非常に類似しており,6角形の形をした大きな教室2つで構成されている。B幼稚園の建物の外壁にはうさぎやきつねの絵がペイントされていた。B幼稚園では,年長,年中,年少がありそれぞれ1クラスずつ,合計3クラスが設置されていた。1クラスあたりの児童数は30名ほどであり,各クラスは教員が2名(担任1名,補助1名)で指導されていた。園では年中と年長を1つの教室で指導しており,2クラス合同で活動するときもあれば,分けて活動することもあった。

P幼稚園は,年長,年中,年少クラスを1クラスずつ設置しており,それぞれ30名ほどの人数であった。教員は,園長,各クラス担当教員1名,補助教員も1名であった。補助教員はI幼稚園やB幼稚園と異なり常に特定のクラスにつきっきりという状態ではなく,基本的には担当教員が1名で指導している状態だった。

K幼稚園は,高校の敷地内に設置されている幼稚園で,児童の数が1クラスあたり10名ほどだった。年少,年中,年長とそれぞれ1クラスずつあり,教室数もそれに応じて分けられていた。教員は,園長と担当教員が各クラス1名ずつおり,合計4名の教員で運営していた。

園ごとに時間の管理の方法は様々であったが,B幼稚園の活動を参考に幼稚園での1日の活動の流れを表1にまとめた。

幼稚園Bの1日の年長クラスの活動内容
時間内容
8:00 登園した児童から自由に遊ぶ。
8:30 あいさつ,今日の日付の確認などを行う。
8:40 歌,ダンス,タムタム(太鼓)の練習をする。
9:00 運動場へ出る。かけっこや,輪になって全員でダンスを行う。
9:35 室内へ戻り小休憩をとる。御座を敷いた床の上に寝転がり休憩をとる。
9:45 歌,ダンスをする。
9:55 3つのグループに分かれて活動する。
グループ1:テキストを使って文字の練習やぬりえをする。
グループ2:石板を使って文字の練習をする。
グループ3:ままごとや,お店屋さんごっこ,人形を使って遊ぶ。
グループは30分ごとに交代する。
11:00 おやつを食べる。自由時間をとる。
12:00 児童の一部は机で文字の練習を行う。
12:30 児童の一部は机で文字の練習を行う。
13:00 退園する。

B幼稚園を含むすべての幼稚園では,フランス語を教授言語として使用していた。文字の練習ではフランス語のアルファベを書くための最初のステップとして記号を書く練習をしており,歌もフランス語で歌われていたしかし,生活ではウォロフ語を使用している児童にとってはフランス語を習得することは容易ではない。そのため,いずれの園でも補助するための言語としてウォロフ語を使用していた。また,B幼稚園とP幼稚園ではイスラム教育が外部の教師(聖職者)によって行われていた。内容は,コーランを暗唱するというものであったが,B幼稚園では前児童がイスラム教育を受けており,P幼稚園では他宗教(キリスト教など)の児童が受けていた。他宗教の児童らは,同時間に教室の外で教師や児童同士で遊びながら過ごしていた。

3.私たちの活動内容

月曜日から金曜日に1日1園で教育支援活動を行った。実際の活動期間は2週間だったため1週目は主に観察や教材作りの補助,日本の紹介を行い,2週目に児童への支援や教師らへの提案を行った。

まず1週目は自己紹介も兼ねて日本の紹介を紙芝居とペープサートを用いてフランス語で行った。日本の位置や気候,食事,衣服,住居の紹介だけでなく,伝統的な踊りの一つとして阿波踊りを紹介した。フランス語では理解できない児童のために,私たちがフランス語で行い,各担当教員にウォロフ語に訳してもらい内容を理解してもらった。いずれの園でも児童らは歌やダンスが好きなようで阿波踊りの紹介では一緒に踊り,かけ声を出した。そして長期隊員Aさんの提案で,I幼稚園では簡素な校舎に壁画を描く活動を児童や教師とともにおこなった。以前から,教師やAさんは外壁が質素なことが気になっており,児童たちが楽しんで登園してくれるようにという目的で今回の外壁ペイントの活動を行った。デザインは私たちが行い,セネガルの国樹であるバオバブを中心に世界各国の子どもたちが手をつないでいる絵を壁に下書きした。ペンキを初めて使う児童がほとんどであったため,下絵に色付けしていく活動を行った。ペンキは,園から一部支給してもらい,残りをAさんが用意した。ペンキの刷毛は予算が足りないため,現地のセイラー(仕立て屋)から布の切れ端をもらいそれを木の棒に巻きつけて刷毛の代用道具を作成した。幼稚園の児童だけでなく併設されている小学校児童も初めて見る活動だったようで,休み時間には園の外壁の周りには多くの児童らが集まっていた。

4.観察から得た課題

1週目の観察から以下の5点の課題が見受けられた。

  1. 教師はGuide book(指導の指針)に沿って忠実に指導しているが,指導指針に記載されている教材が揃わなかった場合はその活動を行わない。
  2. Guide bookにはグループ活動の時のグループ数が明確に記載されていた。そのため,それに従ってグループ活動をさせていた。しかし,教師の数に対してグループの数が多いため,グループによっては教師がいないままで児童だけで活動をしているグループがあった。また,児童にとっては長時間教師なしで同じ活動を続けさせられているため,飽きてしまい,走り回る,児童同士で喧嘩をするなどが方々で起きてしまっていた。
  3. P幼稚園とB幼稚園では教室数や建物の設計から年長と年中が同じクラスで授業を受けていた。そのため,年長の児童は文字の練習の時間に,年中が教室内で太鼓を叩く活動が同時に行われている状況があった。これにより,児童たちはそれぞれの活動に集中できていない。
  4. 3園の幼稚園では,担任以外の補助教員がおり,中には児童の活動内容を把握できていない,指導する上で児童を叩く,怒鳴ることも散見された。
  5. 各幼稚園では,海外から援助物資(黒板や本などの教材)がいくつも置いてあった。しかし,その多くは活用されておらず倉庫においたままか,あるいは本来の用途ではないものとして使用されていた。

以上が観察から私たちが見出した課題であるが,これに対して以下の提案活動を2週目に行った。すべての課題に対して提案することは困難だったため,課題②に重点をおき,提案をした。課題②では,教師の数に対してグループの数が多かったため,グループによっては教師がいないまま児童だけで活動をしているグループがあったことや,活動に飽きた児童らが走り回ったり,喧嘩をしたりという問題が方々で起きていた。グループの数についてはGuide Bookに記載されていたため,私たちがそのきまりを変更することは困難であった。そのため,グループ数は変えず,児童らが飽きずに活動を楽しみながら続けられる教材と活動を考え提案した。活動の内容によっては現地教師らに負担がかかってしまう可能性も考えて,教師らの負担が少なく,また予算も安価で済むものを2つ提案した。1つ目は,「迷路あそび」である。児童らが書く文字はGuide Bookに定められているため,その中に書かれている文字をなぞっていけば,ゴールにたどり着けるという教材を提案した。文字の間には,普段生活の場で親しんでいる動物や食べ物を書き,また迷路の種類も複数用意した。2つ目の活動は,児童全員で1つの作品を完成させる活動である。これも,Guide Bookに記載されている文字を題材にして提案した活動である。この活動のねらいとしては,行程を児童らが飽きずに文字を練習することができることを目標にした。そのため3段階の行程をもうけ,文字を書く,色を塗る,のりで作品を大きな模造紙に貼っていくという活動を通して,全員で一つの作品を完成させることを提案した。提案は園長や担当教員に対して行われ,教員らも一緒に準備してもらえるものを選択してもらった。一緒に準備してもらう目的は,私たちや長期隊員がいなくても,自分たちだけで教材づくりをしてもらうためである。この提案活動は,P幼稚園とK幼稚園で行われた。2園とも,提案した活動を受け入れてくれ,2週目の朝に準備を行った。必要な道具は,色鉛筆,のり,紙だけで,教員の準備としては紙を切り,文字を書くための補助線を引くということであった。

5.おわりに

今回のボランティア活動は短期間であったが,現地の幼児教育や生活の実情を幅広く見ることができた。日本では当たり前とされていることが,セネガル共和国では当たり前ではないということを痛感し,国民性,価値観,習慣,宗教によって「正しいこと」や「良いこと」が変わってくるということも実感した。毎日40℃の気温中児童を指導するのは容易ではない。しかし,セネガルの教員の多くはこのような厳しい状況の中で教育の大切さや児童のことをよく考えて指導していることがわかった。他国で良いとされている方法をセネガルに当てはめるのではなく,セネガルの状況をきちんと見極めることが今後教育支援や教育援助を行っていく上で大切だということに気が付くことができた。現場の教員自身が活動や指導の必要性を実感したりしなければ,いくら提案しても活動は継続されず,自主的に行われない。物事は表裏一体であり,1つの価値観や側面で見ていてはわからないこと,乗り越えられない課題があるということがわかり,多面的な視野の重要性とそこにいる人々や習慣に合わせていく柔軟性が必要だということを身を持って知った。

最終更新日:2016年12月14日