幼年発達支援コース 教授 湯地宏樹

南アフリカ共和国「幼児教育セミナー」に参加して

南アフリカ共和国のプレトリア大学(University of Pretoria)(写真左)は、鳴門教育大学・大学間交流協定締結校の一つです。

2016年11月22日(火)の南アフリカ共和国での「幼児教育セミナー」に招待され、近森憲助教授(元副学長(国際交流担当))と共にこのセミナーに参加しました。「幼児教育セミナー」は、NG Church Stella Street(写真右)で開催されました。

プレトリア大学

NG Church Stella Street

「幼児教育セミナー」のテーマは、Early Years Education – Synchronizing Theory and Practice(「幼年期の教育─理論と実践の同期性─)です。下記の日程で行われました。

時間内容
09:00 – 09:10 副学部長の話
09:10 – 09:25 両施設の紹介:
プレトリア大学 幼児教育学科長の話
プレトリア大学日本研究センター長の話
09:25 – 10:20 基調講演:Early Childhood Care and Education in Japan
鳴門教育大 幼年発達支援コース 湯地宏樹
10:20 – 10:50 指定討論1 指定討論2
10:50 – 11:15 質疑応答
11:15 – 11:55 プレトリア大学の学生によるパネル発表:1年生~4年生&大学院生
11:55 – 12:10 SARAECE : South African Research
12:10 – 12:25 閉会式及び今後の展望:プレトリア大学幼児教育学科長の話
鳴門教育大学 国際教育コース 近森憲助
12:25 – 12:30 受賞者発表:ベスト・ポートフォリオ
12:30 – 12:40 ギャラリーウォーク/展示:プレトリア大学の学生のポートフォリオ
実践における実演体験のポスター発表
12:40 – 13:00 休憩

基調講演の内容:日本の幼児教育

日本の幼児教育について、次の4つについて話をしました。

(1)日本の幼児教育の課題と現状

日本において少子化が進行していること、保育の量は拡大しているにもかかわらず待機児童がいることなどの問題があること、そうした背景もあって保育の質と量の拡充のために「子ども・子育て新制度」が2015年4月にスタートしたこと、保育所、認定こども園、幼稚園の制度や特徴とともに、ほかにも家庭的保育、小規模保育、事業所内保育、居宅訪問型保育など0~2歳の少人数の子どもを預かる地域型保育があることなどを紹介しました。

(2)保育実践ビデオによる幼稚園生活の日常

「幼児教育の基本は、環境を通して行うことを基本とする。このため、教師は幼児との信頼関係を十分に築き、幼児と共によりよい教育環境を創造するように努めるものとする。」とあります。それは、教師からの一方的な指導や干渉ではなく、教師と子どもとの動的で相互作用的な関係によって創られるものであることを意味しており、子どもは興味関心に基づいた様々な経験をすることによって、心情、意欲、態度が育つことなどを、鳴門教育大学附属幼稚園の保育実践ビデオを使用しながら説明しました。

(3)保育者の役割

教師の役割には間接的・消極的支援と直接的・積極的支援の2つの方法があることなどを紹介しました。保育者は、子どもが憧れるモデルのような役割だったり、子どもと対話したり共感したりする役割だったり、子どもを理解したり支える役割があることなどを、鳴門教育大学附属幼稚園の保育実践ビデオを使用しながら先生には様々な役割があることなどを説明しました。

(4)保育者養成

幼稚園教諭免許状は二種、一種、専修と別れていること、教育職員免許法施行規則における必要な最小限の単位数、保育士証は国家資格であり、階級はなく、保育士試験でも取得可能であることなどを説明しました。鳴門教育大学の場合、1年次教育実習3日間、2年次保育実習11日間、3年次教育実習4週間、4年次保育実習11日間の実習があることを紹介しながら、理論と実践の統合のためにこのような実習の機会や教職実践演習が大切であることを説明しました。

講演の写真

講演の写真

南アフリカ共和国の幼児教育

南アフリカ共和国は、BRICS(Brazil, Russia, India, China and South Africa)と総称されるように、著しい経済発展を遂げている国です。多言語・多人種・多民族国家といわれており、11もの公用語があります。

義務教育は7歳から16歳までの9年間です。就学前教育は6歳以下の幼児が対象となっています。南アフリカ共和国には2つの就学前教育制度があります。一つは公立の学校、もう一つは地域社会や私的機関によって運営されているものです。南アフリカ共和国の滞在中に、プレトリア大学の先生方の案内で両方とも見学することができました。

初等教育(Primary School)は7歳から13歳をGrade1~Grade7とする7年間です。幼児教育には0~4歳の子供を対象としたPre-Grade Rプログラム、5~6歳の子供を対象としているGrade R(Reception Year)プログラムがあるそうです。訪問したある公立の幼児教育学校(Pre-Primary school)では、英語による数学、言語、ライフスキルのガイドラインが定められ、それに沿って保育の計画、実行、評価が行われていました。1学級28人で2人の教師がいました。下記のデイリープログラムのとおり、朝7時から始まり、だいたい30分ごとに活動内容決まっています。

デイリープログラム
時間内容
07:00-07:45 登園&自由遊び
07:45-08:00 挨拶。出席。誕生日。カレンダーや天気表。ニュース(月曜日)。
08:00-08:30 数学、言語、ライフスキル。教師の指導による活動。
08:30-09:30 1つもしくは2~3の芸術活動。室内での自由遊び。片付け。
09:30-09:45 休憩
09:45-10:00 屋外での自由遊び。片付け。
10:00-10:45 教師の指導による活動。数学、言語、ライフスキル。
10:45-11:45 音楽、メディア、粗大運動。
11:45-12:15 言語(綴りと発音)
12:15-12:45 お話の時間
12:45-13:15 自由遊び
13:15 降園。

もう一つ訪問した私立の学校は、大学附属の幼小中一貫校でした。月謝は日本の私立学校とほぼ同じでした。レッジョエミリアの保育方法を取り入れているとうかがいました。室外の砂場、アスレチック、ままごとコーナー、芝生の上などで、子どもたちは好きな遊びを自由に楽しんでいました。室内外には、保護者の協力によって、木の実、木の皮、瓶のふたなど様々な素材が用意されていました。

両者の学校に共通しているのは、室内におけるアルファベットなどの英語による掲示がなされていること、各教室に、クリスマス、海などをテーマとしたウェブ・マップがあることなどです。

プレトリア大学の保育者養成

プレトリア大学の幼児教育学科カリキュラムをみると、1年次には教育制度論、健康・安全、幼児数学、幼児言語、身体活動、学習支援、教育技術・教材、幼児発達研究、アートと文化など、2年次ではルソー・ペスタロッチ・デューイ・ピアジェ・ヴィコツキーなど教育理論、10日間の観察実習、数学演習、言語演習、自然・科学、ライフスキル演習など、3年次では教育実践、4年次では研究法や教育実習などが行われています。Grade Rに合わせた科目設定になっているという印象です。

「幼児教育セミナー」においても、4年間の教材を蓄積したポートフォリオ(写真左)を表彰したり、ピアジェやヴィコツキーなどの理論にもとづく実践がパネルで展示されたり、理論と実践を意識した学習成果に力を入れているのがわかります。また、写真右は、ある幼児学校の保育室の様子ではなく、プレトリア大学内にある、いわゆる「模擬保育室」です。学生はこの部屋で実践的な演習をしていることを垣間見ることができます。

ポートフォリオ

模擬保育室

プレトリア大学との共同研究

2016年度から幼年発達支援コースは、南アフリカ共和国のプレトリア大学日本研究センターと共同研究を始めています。研究テーマは、「若手保育者のアイデンティティ」です。4年制大学を卒業した若手保育者のアイデンティティ形成について国際的調査研究を行う予定です。今回の訪問でプレトリア大学の幼児教育科のスタッフも研究に加わることになりました。男性保育者にも注目しようというアイデアが話し合いから新たに生まれました。

保育者を取り巻く状況が難しくなる中、将来においてリーダー的役割を果たすことが期待される若手保育者の方々が、どのように保育者としてのアイデンティティを形成していくかということは、国内にとどまらず国際的にも重要な課題となっています。南アフリカ共和国プレトリア大学との共同研究を行うことによって、二国間国際比較研究によって、その特徴を浮き彫りにしたいと考えております。すでにインタビュー調査を行っており、GTA(グラウンテッド・セオリー・アプローチ)の手法を使って分析中です。

最終更新日:2017年1月4日