学長特別対談(飯泉嘉門徳島県知事)

  機能強化の取組に対する期待

     -徳島県を拠点に日本・世界に展開する鳴門教育大学への期待-


 

 学長のリーダーシップの下で推進する機能強化の取組として,消費者教育の推進,グローバル人材育成・国際教育貢献,いじめ防止支援並びに地域の学力向上支援を教員養成の立場から取り組んできた鳴門教育大学と,同事案を行政の立場から取組む徳島県。互いの取組を通して,連携の必要性や更なる大学への期待について,飯泉嘉門(いいずみ かもん)徳島県知事をお招きし,山下一夫学長と熱く語り合いました。

 (平成28930日(金),鳴門教育大学特別会議室にて)

 


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飯泉 嘉門(いいずみ かもん)

 徳島県知事

 

 平成155月に徳島県知事に就任し,現在4期目。

 新未来「創造」とくしま行動計画を策定し,「一歩先の未来」を具現化するオンリーワン徳島の実現に取り組む。

 昭和357月生まれ。

 

山下 一夫(やました かずお)

 国立大学法人鳴門教育大学長

 

 平成22 4月から鳴門教育大学理事・副学長,平成28 4月から現職。

 教師教育のリーダー大学として,人間的魅力があり,学び続ける教員の養成に取り組む。

 昭和283月生まれ。

 

 

はじめに

 

山下学長:
 お忙しい中,お越しいただきまして,ありがとうございます。
対談に入る前に,本学が学長リーダーシップのもとで推進している機能強化の取組について,ご説明いたします。
 鳴門教育大学は,地域に貢献する取組と,強みや特色のある分野で日本全国さらには世界的な教育研究を推進する取組を,機能強化の中核とする国立大学として位置づけられています。また,教員養成系大学・学部のミッションとして,本学は地域の教育に貢献するとともに,日本全国の教員を対象にした再教育を行い,資質能力の向上に取り組んでいます。
 地域においては,徳島県教育委員会と連携協力し,教員人材育成,教員研修,学力向上,いじめ・生徒指導,サテライト事業などの専門部会を置き,徳島県の教育力の向上に努めています。
 全国を対象に行っている事業では,本学が取りまとめ大学となり,平成27年度から宮城教育大学,上越教育大学,福岡教育大学の4大学が連携協力し,「いじめ防止支援プロジェクト(以下、「BPプロジェクト」(Bullying Prevention:いじめ防止))」を立ち上げ,いじめ問題の改善に取り組んでいます。また,JICA(独立行政法人国際協力機構)と連携協力し,アジア,大洋州,中東,アフリカ,ラテンアメリカなどの開発途上国から鳴門教育大学に研修員を受入れ,開発途上国の教育力向上のために教員研修にも積極的に取り組んでいます。
 このように鳴門教育大学は,教師教育のリーダー大学として,地域及び全国,そして世界に対して,積極的な教育・研究・社会貢献活動を行っています。
 これらの取組について,飯泉知事から忌憚(きたん)のないご意見をいただき,本学の教育研究活動に活かしていきたいと思っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。
 まず最初に,全体的な鳴門教育大学の印象を,お聞かせいただけないでしょうか。


飯泉知事:
 これからの日本,徳島,四国,その将来を担う子供たちを,学びの場で率いる学校の先生を養成する大学なので,学生たちには,教育分野だけではなく,一般教養から始まり時事問題,あるいは徳島,四国,日本のこれからを見据えた先見性や着眼点など,幅広く,学んでいただきたい。そして,教員になった暁(あかつき)には,子供たちに対して,自らの価値観で自らの学びを伝えていく。鳴門教育大学は,こうした良い循環,連鎖を作っている素晴らしい大学であると思っています。


山下学長:
 ありがとうございます。教員養成系の大学として,学生たちが本学で学んだことを,教員になって子供たちに伝えていくということが非常に大事です。そして,本学の場合,地域に根ざすというのは当然のことですが,日本全国さらには世界に展開していこうと考えていますので,そういう広い視野を持った学生をぜひ育てていきたいと思っています。

 

(1)徳島県の消費者庁移転誘致と消費者教育の推進について


山下学長:
 私が学長就任のご挨拶にお伺いしたとき,飯泉知事から消費者教育について色々お話しいただき,非常に感心した次第です。知事は消費者教育に非常に造詣(ぞうけい)が深いのですが,消費者教育に関心を持たれたきっかけは何でしょうか。

対談風景

 

飯泉知事:
 我々徳島をはじめ関西の人間は,元々商都大阪を中心として,子供のうちから,商売が身近な環境にあったものですから,消費に対する“消費者目線”の感性が磨(みが)かれてきたのではないのかということが,まず挙げられます。
 徳島県の県民環境部長のとき,当時の“守られる消費者”から“賢い自立した消費者”へ目標の転換を図りました。徳島県知事に就任してからは,消費者大学校の上に大学院を設置し,次に「くらしのサポーター制度」を創設し,持続する認定制度としました。
 国の消費者行政推進の機運に乗り,消費者庁の設置について提言を行い,「くらしのサポーター制度」は当時の野田聖子担当大臣から高い評価を得て,現在の「消費生活コーディネーター制度」につながっています。我々としては消費者庁のいわば産みの親の1人であると,こうした認識を持っています。

  

山下学長:

 徳島県の消費者庁誘致の背景には,飯泉知事がまだ部長のときから地道な取組をされ,消費者教育にずっと関わってこられたというお話を聞き,非常にうれしいですね。

  

飯泉知事:

 ようやく国においても消費者庁が誕生し,そして今回は徳島で3年間の実証をするということで,消費者行政,消費者教育,その新しい政策を作っていく芽出し(めだし)ですね、企画部門である「消費者行政新未来創造オフィス」が来年度徳島に設置されるよう概算要求,あるいは組織移転要求がなされています。

 中央の各省庁は,業(なりわい)を育成するところと規制をするところが,同じ省の中に並立してあります。しかし,ともすると育成する側に重きが置かれてしまう。そうではなくて,我々としては消費者サイドに立ち,消費者サイドのものがすべて消費者庁に集められ,消費者省ができるべきであるという認識です。

 現在,消費者行政・教育はマスメディアを通じて,世の中で注目を浴びている中,これから重要になってくるのが,消費者教育だと思います。そこで,鳴門教育大学の皆さん方には,一肌も二肌も脱いでいただかなければならないと大いに期待をするところです。

 

山下学長:

 鳴門教育大学でも消費者教育推進プロジェクトを立ち上げ,徳島県が推進する消費者教育に協力し,地域及び学内の消費者教育をより一層推進するとともに,国の消費者行政にも可能な限り協力し,これまで行ってきた消費者教育の成果を更に多次元に拡大していこうとしています。

 この中で,消費者教育に関するモデルカリキュラムの開発や,消費者教育を実践できる教員の養成を推進していきたいと,現在,取り組んでいます。

 

飯泉知事:

 徳島県は同時に,この消費者教育を大人の皆さん方だけにするのではなくて,やはり感性が豊かな子供の頃から発達段階に応じて消費者教育を行っていこうとしています。

 幼稚園・小学校では金銭教育,中学校・高校では消費者教育,高校・大学では消費者教育,倫理的消費(エシカル消費)の実践となります。

 大学では,エシカルコンシューマ(倫理的消費者)をはじめ,様々な点でセンシビリティ(感受性)が高い活動を街角で行っていただく。それを今度は高校生・中学生に伝えるという,良い循環を築いていただく。特に高校生・大学生は商品に対して非常にセンシビリティが高いので,ぜひ鳴門教育大学の学生にそうしたものを学んでいただきたい。

 それと同時に,鳴門教育大学では,先生になった暁に,子供たちにどう教えていくのか,どう実践するのか。消費者教育を座学だけではなく,フィールドワークを行うことで学んでいただく。そして日本にいるだけでは分からないこともあるので,その原点のところにいかに行くかということになると,やはり海外に飛び立つ。となると,語学の問題とか,あるいは海外留学の経験があるのかないのか,というだけでも全然これは違う点です。



(2)グローバル人材の育成について 

山下学長:

 海外でのフィールドワークを含め,海外での経験は学生たちに非常に良い影響をもたらしています。

 本学の場合は,「トビタテ!留学Japan」での留学も勧めていますが, JICAと連携して海外の開発途上国の教育力の向上に取り組んでおり,これに学生が様々な形で関わっています。

 これは,JICAの教員研修事業(教育関連分野)を本学が受託し,現地国のニーズに合った研修を行うもので,現地国の教員などが研修員として訪日した際に,学生がグローバルチューター(補助員)として研修に参加しています。

 さらに鳴門教育大学では,研修後のフォローアップとして,本学の教員が現地国に出向き指導しており,その際に学生をそれぞれの国に連れて行きます。

 開発途上国には本当に色々な国があって,帰国後の報告会で,「学校に電気が届かない国で,授業を教えた」と,学生の発表を聞くこともあり,「この学生たちはすごく良い経験をしたなぁ」と感動します。

 このように,JICAと連携して開発途上国の教育力向上に取り組んでいる本学は,平成27年度におけるJICAの開発途上国教員研修事業の受託件数が全国第1位であり,今までに37か国約500人の研修員を受け入れた実績があります。また,平成25年には,この研修事業の功績によりJICAから「国際協力感謝賞」を受賞しています。

 さらに,官民協働のオールジャパンで推進する日本型教育の海外展開にあたっては,本学の取組は大学の先行事例として高い注目を集めています。

 今後も受託事業を通じた国際教育協力や,学生の異文化体験を通じた国際感覚の涵養(かんよう)を推進したいと考えています。また,日本型教育の海外展開に寄与していきたいと思っております。

  

飯泉知事:

 ぜひ,そうした学生さんたちが海外に飛び立っていただけることに期待を申し上げたい。

  

山下学長:

 飯泉知事は非常にグローバル教育,あるいはグローバル問題に関心がおありですけれども,それに関してご意見をお聞かせください。

  

飯泉知事:

 やはり昨今の高校生・大学生は非常に内向き志向だと思います。アンケート調査などでも,例えば「留学に行きたいですか?」という問いに対しては,ほとんどが「行きたくない」という回答です。「宇宙船地球号」なんていう言葉がありますが,我々の時代よりも,現在はまさに世界の中の日本だということを考えると,やはり世界を見て,そして日頃は日本において行動するという“Think globally, act locally”という活動を実践していただきたい。

 たしかに語学という苦労はある訳ですが,それがそのあと数倍の喜びになり,そして自らの種,あるいはそこで接した人たちとの大きな友情の輪が広がるんだと。こうした点をもっともっと我々としても,生徒や学生の皆さんに知っていただく。またそういった機会をいかに増やすべきかということで,このグローバル教育,これもやはり発達段階に応じてやっていただきたい。

 平成32年から小学校高学年から英語の教科化がなされます。「将来,英語の先生になりたいな」という人たちが,今までのただ英作文ができるとか,文法ができるというだけでは足りない訳です。やはり言葉がしっかりと,できればネイティブに近いものが求められます。

 今,徳島では小学校はALTの皆さんと日帰りキャンプ,「デイキャンプ」をしています。中学校では1泊のキャンプをします。高校になると,これは全国の都道府県としてはモデルと言われている,県南牟岐(むぎ)を中心として海部郡(かいふぐん)をフィールドとする「英語村」,サマースクールを行います。海外のネイティブや日本の大学生が中心となって運営しており,県内外から公募で集まった高校生が,6泊7日で英語漬けの研修をする。「英語村」では,ただ単に英語を学ぶのではなくて体得する。体得をするためには当然,我々が考えているアイデンティティなどをいかに相手に英語で伝えられるかということが大変重要になっており,ここが海外に留学などで行くと一番問われるところです。

 当然,鳴門教育大学の皆さんにも,英語を生きた英語として体得していただいて,特に英語の教員になろうという皆さんには,それを今度は子供たちにしっかりと伝えていただく。

 そのためにも,徳島県では,平成29年からは英語の教員の審査の段階において,最低でも英語検定準1級を持って教員採用試験に臨(のぞ)んでいただこうと資格の要件化を図っています。平成32年から小学校で英語が教科化される訳ですから,やはりネイティブ同等の力を持って,そして英語の教員として教壇に立っていただく。英語を教えるというだけではなくて,英語というツールを通じてグローバル教育を教えていただく,その最先端に立っていただきたい。鳴門教育大学で将来英語の先生を目指そうという皆さんにとっては,こうした点を前提として,それを越える色々な知識を身につけていただきたいと思います。

  

山下学長:

 本学の場合,小学校の教員免許状を全員に取らせるようにしています。その時に英語科教育コース以外の学生にも,英語検定2級は取るようにと勧めています。小学校の先生の中には英語の教科化に直面し,戸惑われている先生が非常に多いかもしれません。しかし,本学では教員採用の時から英語の授業を積極的に担当できるような小学校教員の養成を目指しています。

 さらに,平成28年度から,大学院の言語系コース(英語)に小学校英語教育分野を設置し,外国語活動を担当する学級担任の英語指導力の強化や,英語専科教員の養成に取り組んでいます。

 それから,今,小学校の先生方で,どうやって英語教育をすれば良いのか戸惑われている先生方に対して,本学の小学校英語教育センターでは,本学の教員が,小・中学校に出向いて,一緒に英語教育について考える小・中学校英語教育研修への講師派遣事業にも取り組んでおり,好評です。

 それと私自身,鳴門市の小学校に実習を見に行ったり,附属小学校の実習を見に行くと,「あぁ,時代は変わったな」と思いますね。私の時は本当に読み書きが中心で,話すのは二の次・三の次みたいなところがありましたけど,子供たちが生き生きとネイティブの人と話しているんですね。これからの日本は頼もしい,この方向でいけば未来は明るいのではないかな,というように感じました。

 

飯泉知事:

 若い皆さんは本当にスッと入っていける。学年が下であればあるほど,言葉の壁というのはあまり感じないで入れるんです。

 そこで一番課題になってくるのが,やはり成人リカレント教育(※1)です。つまり今まで英語の先生であったり,山下学長が言われたように,英語以外の教科の先生が英語も話せなければとなっていった時に,戸惑いがあるかと思います。その受け皿としても,鳴門教育大学には成人リカレント教育,特に英語をどう駆使していくのか。こうした皆さん方に,壁のない分かりやすい形でのカリキュラム,これを工夫していただけると非常に助かります。そうすると教員の皆さんも,場合によっては大学院に行くパターンも増えてくると思いますので,ここはぜひよろしくお願い申し上げます。

 

 

(3)鳴教大発,いじめ防止の全国的な取組について

  

山下学長:

 次にいじめ問題ですが,本学が取りまとめ役として,昨年から「BPプロジェクト」を立ち上げ,全国的に展開しています。

 このプロジェクトは,宮城教育大学,上越教育大学,福岡教育大学そして本学の4教育大学と,各地の教育委員会,国立教育政策研究所,日本生徒指導学会,公益社団法人日本PTA全国協議会などの関係機関が連携・協働し,各種支援事業,教育研究事業,研修事業等を展開することで,教育委員会や学校のいじめ防止の取組を支援し,いじめ問題の改善に寄与していくという取組です。

 徳島県においても,現職教員やいじめ問題に関心のある一般の方などを対象に,年2回の研修会を実施しています。

 また,本学は生徒指導支援センターを設置し,県内外の教育委員会等からの要請を受け,教職員や保護者,児童生徒が対象の研修会などで,いじめ問題などに関する講演や助言指導をするといった取組も行っています。

 ところで,私自身が徳島県の「いじめ問題調査委員会」の委員として参加した1回目の委員会のときに,飯泉知事から,いじめ問題に関して熱い思いを語っていただきました。

いじめ問題に関して,改めてお考えをお聞かせいただけないでしょうか。

  

飯泉知事:

 山下学長には,徳島県の「いじめ問題調査委員会」の座長を引き受けていただき,ご尽力をいただいております。鳴門教育大学の皆様が,このいじめ問題に対して高い感性を持たれて様々な対策を講じて,また提案をいただけるということ,感謝を申し上げます。

 いじめ問題は,昔からありましたが,昔は生徒間でこの問題を解決していった。いわば麻疹(はしか)のような感じで,一度は誰もが経験して,誰かが「じゃあ,あの子」というと,その子を目掛けてみんなが揶揄(やゆ)する。しかし,それに対して「そんなことはないよ」と言う子が必ずいました。そこで全体で議論になったり,喧嘩(けんか)になったり,それで“雨降って地固まる”ということが多かった。

 弱い者に対して,いじめるよりも,みんなでかばうという精神がありました。ところが昨今は逆に弱いターゲットを本当に徹底的に探して,特に勉強ができる子たちが陰湿にいじめをする。

 いじめ問題を解決していくために,当事者同士のつながりをできるだけ良い方向へ導いていく必要がある。いじめに対して「おかしい」と言った人に矛先が向くのではなく,多くの人が「おかしい」と声をあげることができ,様々な意見を言うことができる環境で,大いに議論をするということが重要です。

 いじめ問題の決着・解決は,なかなか難しい訳ですが,いじめ問題に関する最先端の智恵を集め,徳島で立証していく。そして日本のみならず世界のモデルにしていくことが,これからの大きな目標ではないのかなと思っています。

  

山下学長:

 世界的にいじめはあるんですけれども,飯泉知事が言われましたように,かばう人,仲裁者(ちゅうさいしゃ)が,海外と比較して日本の場合は少ないんです。海外の暴力行為は日本より激しい場合が結構あるんですが,かばう人がいる。日本でも仲裁者を何とかして増やしていきたい。

 そのためにも,いじめ問題に対し大人も教師も「本気なんだ」というメッセージを伝えられるかどうか,そこが一つの勝負どころだと思います。大人も教師も本気なんだと子供たちに伝わる姿勢・体制を作っていくことに,本学としても取り組んでいます。

 子供同士の関係において,教師がいじめかどうかを考える以前に,「おかしいな,ちょっと気になるな」と思う感性と,それを教師集団で情報共有し,子供たちに積極的に関わっていきましょうという姿勢・体制です。

 

飯泉知事:

 確かにいじめの発端というのは,些細(ささい)なことから始まります。例えばお互いに肩がぶつかっても「ごめん」と言えばすむ問題を,黙って通り過ぎる。この時に生じたわだかまりが蓄積されて,相手が何か問題を起こした場合に,「いじめてしまえ」となる。お互いが言葉を交わすという習慣が非常に少なくなってきています。

 ですから,私がよく言うのは,まず「おはよう」「こんにちは」などの日常の挨拶をする。

 こうした挨拶ができる環境なら,ぶつかった時も「ごめん」,「いいよ,急いでいるの?」と,自然に会話が生まれ,そこから色々お互いの相談にもなり,友達関係ができる。しかし会話が無いと「禍(わざわい)を転じて福と為()す」のではなくて,禍がより大きな禍を招いてしまう。

 そのためには,やはり第三者的,あるいは少し上から見られる先生方が「何かおかしいな?」という気づきを持っていただいて,本当に初期段階でこれを仲裁であるとか,あるいはこれをケースメソッド(※2)として,子供たちに考えてもらう。こうした工夫であったり,懐(ふところ)の深さをもっていただけば,本当に変わってくるのではないかと思います。

 

山下学長:

 知事が言われるように,挨拶は,いじめ予防だけではなくて,人間関係の基本ですね。

 それと,日本の場合は非常に残念なことに,子供たちの自己肯定感が低い。調査をするとやはり自己肯定感の高い子は,他の規範意識も高かったり,自分なりに学業も頑張っている。それに対して,自己肯定感の低い子は色々悩みを抱えている分,十分に力を発揮できない。そういうことが統計的にも出ています。そのような状況で,声を掛けられる,気づいてもらっているというのは,自尊感情にとって非常に大事なことだと思います。

 

  

(4)徳島の子供の学力向上について

 

山下学長:

 最後に学力問題,まさに自尊感情とも関わってくるところです。

 現在,鳴門教育大学は,平成27年に徳島県教育委員会と締結した連携協定に基づき,連携協議会を設置し,協議会の下に置かれた学力向上やサテライト事業などの専門部会のもとで,徳島県の学力・学校力を向上させるために取り組んでいます。

 実は,本学と徳島県教育委員会は,以前から教育における諸課題を解決するため,連携に関する覚書を交わしていました。しかし,新たに連携協力に関する協定を締結したきっかけは,徳島の子供たちの学力向上のため,県教育委員会と本学が強く連携協力しようと双方が思ったからです。

 学力問題に関して,飯泉知事のお考えをお聞かせ下さい。

 

 

飯泉知事:

 学力テスト(全国学力・学習状況調査)が始まった頃は,あまり教育現場の問題ではないという意識が,徳島をはじめ全国にあったのではないのかと思います。しかし,文部科学省から最初は学校ごとに公表はしないという話もあった中で,都道府県単位でランキングが出てきました。

 こうなってくると,状況が変わり,学力が低いと言われる地域には,転勤族の皆さんは子供を連れて来ずに単身で赴任します。これは,様々な点で徳島から早く出ていきたいということに繋がります。

 このことは,教育現場だけの問題ではなくて,社会の構図の問題になってきます。学校現場で全国が1つの同じ土俵の上で競うので,しっかりとこれに対して対処をしてもらう必要があります。

 学力テストは全教科ではなく,教科の中でも国語や算数といった一定の教科を対象としています。しかし,理科や社会,あるいは音楽,美術,体育などについては全く評価がありません。社会に出た場合,算数・数学がものすごくできたから,立派な社会人になるかというと必ずしもそうでもないですし,就職に役立つかというと,逆に音楽,美術,体育,技術,家庭の方が,ものづくりの場合に非常に役立ちます。

 私としては最初,この評価は限定的なものだなと思っていたのですが,全国的にランキングが出され,そして「我が県は学力の高い小学校・中学校の県です」という実績が地方創生の1つの資源になってくる。これによって「学力が高い,そして自然環境が良い我が県に,子供が小学校・中学校の時には来てください」と言われると説得力を持ちます。

 そうなってくると,やはり教育現場だけの問題ではなくなりますので,学力テストでしっかりと競っていただきたい。そのためには,鳴門教育大学と教育委員会が連携して取り組むことで,子供たちの学力が向上することを期待しています。

 学力テストは暗記も重要ですが,その先に理解力を求めるテストであってほしい。社会人になって,どのような職種でも重要なのは,理解する力,そして物事を探究する力です。せっかくの学力テストですので,このテストが将来的に物事の理解を深める,本当の意味での学力を高めるきっかけになっていただきたいと思います。

 

山下学長:

 現場の先生の中には,学力テストに一喜一憂されないのは良いのですが,学力テストを利用しない先生もいたんですね。せっかく国を挙げてやっているテストですから,それをいかに自分の授業に活かしていくのか。振り回されるのではなくて,それを利用するぐらいの先生になってもらいたいということで,徳島県教育委員会の策定した「徳島『確かな学力』育成プロジェクト」に本学の教員が一緒になって,先生方の意識改革から始まり,授業方法の改善や家庭学習の充実などに取り組んだ結果,かなり成果を挙げてきたのではないかなと思っています。

  

飯泉知事:

 おかげで小・中ともに20位以内になりました。ここからもう一段上がって10位以内,できれば一桁を目指してもらいたいなと期待しています。

  

山下学長:

 徳島県の学力や学校力の向上に寄与できるよう,これからも教育委員会と連携して取り組んでいきます。まだまだ色々お聞きしたいことはいっぱいありますが,最後に,本学に対してご意見をいただけませんでしょうか。

 

飯泉知事:

 今まで徳島県教育委員会も鳴門教育大学と連携をさせていただき,徳島はもとより四国に,優秀な教員を輩出していただいています。これからも更に時代・時代に合った教育を実践できる,そして自らも学び続けていくことができる教員をぜひ輩出していただきたい。

 その意味では,当面の大きな問題として,消費者庁が徳島へということもあり,ぜひ消費者教育に対しての深い知識と理解,更にはセンシビリティを持った教員を輩出するカリキュラムを作っていただきたい。

 そして鳴門教育大学を出て,倫理的消費を含め,こうした消費者教育を徳島はもとより全国で実践し,消費者教育の場合には,フィールドワークの場に海外も含めており,ここで当然グローバルな視点を持った教員を育成していただきたい。そして日本の消費者教育をぜひ牽引(けんいん)をしていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

  

山下学長:

 「教師教育のリーダー大学」として誇りと責任感をもって,これからも地元と一蓮托生(いちれんたくしょう)の精神で貢献するように努めるとともに,日本さらには世界に展開していく所存です。引き続きご支援ください。

 本日は,どうもありがとうございました。

 

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用語解説

 

※1 成人リカレント教育

 社会人が一定の期間仕事を離れ,もしくは仕事と並行しながら,教育機関などで職業上必要な知識・技術の教育を受けること。社会人の再学習。

 

※2 ケースメソッド

    実際の事例を基にして,討議し解決法を導き出す教育手法。

 

最終更新日:平成29年2月6日

 

 

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