特別寄稿「国立大交付金に競争原理 地方大学破綻の危機」(2007.6)

以下は、平成19年6月16日(土)の徳島新聞朝刊に高橋学長の特別寄稿記事として掲載された内容を転載したものです。

  国立大学法人が大きく揺れ動いている。去る2月に開催された政府の経済財政諮問会議の席上、民間議員から、国立大学の予算(運営費交付金)の配分に競争原理を取り入れ、実績のある大学には手厚くし、もっと国際競争力を付けるべきだという提言がなされた。民間議員の一人である伊藤隆敏東大教授が、その結果、努力しない大学はつぶれるかもしれないが、それは仕方ない。各都道府県に必ず国立大学が必要かどうかの議論もすべきであると主張したとする新聞報道もあった。
  そうした中で、先日、財務省は研究実績(科学研究費補助金の配分比率)を基準にして各大学に運営費交付金を再配分した場合の試算を発表した。
  それによると、87国立大学のうち現在より配分額が増えるのは東大・京大など13大学にすぎず、残りの74大学はすべて減額になるという、ショッキングな結果が示された。しかも、注目すべきは、予想されたこととはいえ、減額率が大きい10大学のうち、実に9大学までが教育大学で占められ、鳴門教育大学もその中に含まれている点である。
  私たちは、こうした競争原理や経済的な効率主義を振りかざした性急な大学改革には、強く反対せざるをえない。そもそも運営費交付金は、大学の運営(経営)を支える最低限度の経費であり、これだけなければ大学の教育研究活動が成り立たないという基盤的な経費である。したがって、この部分に競争原理が入り込んでくると、早晩、経営破綻をきたす大学が続出するであろう。
  そこに見え隠れするのは、成果を挙げえない大学は運営費交付金が減額となり、経営が行き詰まっても仕方がないという、強者の論理である。そのあおりをもろに受けるのは、地方の国立大学であり、教員養成を主目的とする教育大学である。
考えてみると、地方大学は地域の「知の拠点」として産業や文化・教育を支え、地域社会の活性化に大きな役割を果たしてきた。大学が地域に与える経済効果も大きいものがある。私たち鳴門教育大学も、教育大学であると同時に徳島という地域社会で生まれ、はぐくまれた地域の大学である。
  本学は、創立26年という若い大学であるが、その間、有為の人材を各地に送り出し、わが国における教育系の拠点大学としての地歩を固めつつある。また、 大学で培ったさまざまな知的資源を活用して、県や各自治体、地域の人々と連携し、教育・文化活動を中心に多様な地域づくり事業に取り組んでいる。
  私たちは、今後とも社会の負託に応え、優れた教員を育成するための不断の自己改革を重ねるとともに、地域社会にしっかりと根を下ろした教育研究活動を展開させ、地域社会との共存を図っていきたいと考えている。
  運営費交付金を軸とする国立大学の在り方をめぐる問題は、教育再生会議で整理された後、今月19日には政府のいわゆる「骨太方針」に盛りこまれる予定で ある。その結果、地域から大学がなくなるような事態はどうしても避けなければならない。ましてや、徳島から「教育の灯」を消してはならないと心底から県民 の皆さまに訴えたい。

最終更新日:2010年01月04日

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