パナマのチョウとガ



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パナマで出会ったチョウとガ

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★モルフォチョウ

 新熱帯の有名なチョウといえば、モルフォチョウでしょう。
 私は今でも初めてモルフォチョウと遭遇した時のことを鮮明に覚えています。それは島に到着した翌朝、研究所の建物の間を散歩していた時のことでした。取り壊された古い建物跡の開けたところを歩いていた私の視野を、青く輝く大きな物体が悠然と横切っていったのです。バロ・コロラド島やその周辺には青いモルフォチョウは2種類いて、午前中早くは Morpho amathonte が、昼前後には M. peleides がよく飛びます。また、上空高く、白いモルフォチョウが悠然と飛ぶのが見られます。


★ドクチョウ

 ドクチョウというチョウのなかまは、その名の通り、体内に毒を持ち、まずい味がするので、鳥などに捕食されにくくなっています。バロ・コロラド島の周辺では、Heliconius saraH. eratoH. saphoH. cydnoH. drisなどのHeliconius属のものの他に、チャイロドクチョウ Dryas juliaやアサギドクチョウ Philaethria didoなどが毎日のように見られます。
 これらの種は、一種の警告色である赤や黄色の鮮やかな色彩を持っていて、ひらひらと優雅に飛び回ります。そして、これらの種によく似た色や形を持つシロチョウやタテハチョウのなかまがいます。これがいわゆる擬態(ベーツ型擬態)で、まずいチョウに似ることで、捕食を回避する効果があると考えられています。例えば、アサギタテハSiproeta stelenesというチョウは、アサギドクチョウにそっくりで、最初のうちは捕まえないと区別がつかないほどです。もっとも、慣れると飛び方でだいたい区別できるようになります。また、この両者は微妙に生息環境が違い、アサギドクチョウは高いところやギャップを高速で飛んでいるのに対して、アサギタテハは少し日陰の道沿いを飛んだりとまったりしていることが多いのですが、ほとんど数メートルしか離れていないところにいたり、一方を他方が追飛していたりということもあって、本人たちも間違えるようです。
 また、まずい種どうしも互いによく似た色彩をしていて、捕食者はそのうちの一種でもまずいことを学習すると、よく似た他の種も食べなくなると考えられています。これも擬態のひとつで、ミュラー型擬態といわれています。例えば、H. saphoH. cydnoは、後翅の裏の色が違うだけで、そっくりです。


ランタナの花で吸蜜する
チャイロドクチョウ
Dryas julia
アサギドクチョウ
Philaethria dido
★透明な翅のチョウ

 熱帯雨林の中には、透明な翅を持つ硝子細工のようなチョウもいます。例えば、スカシジャノメの一種Cithaerias menanderは林内の薄暗いところを低く飛んでいますが、視野の低いところを赤い残像がすうっと横切るように見えます。このチョウの翅が透けているので、飛んでいると後翅の赤い色だけが残像のように見えるのです。その他にも、ドクチョウのなかまやトンボマダラのなかまなどで、透明な翅を持つ種がいくつもあります。これらのチョウは、薄暗い森の中では、ほとんど目立ちません。


スカシジャノメの一種
Cithaerias menander
★フクロウチョウ

 また、薄暗い林内で印象的なチョウのひとつに、フクロウチョウCaligo sp.があります。これは、とても大きなチョウで、その名の通り翅の裏側にフクロウの目のような大きな目玉模様があり、ふわふわと木から木へ、飛んではとまり、飛んではとまり、を繰り返すのですが、驚かすともの凄い早さで飛んでいってしまいます。


★音を出すチョウ

 オランダのライデン大学から来ていた友人があるとき面白い話を聞かせてくれました。フィールドワークの際に、音を出す面白いチョウに出会ったというのです。フィールドで頭の上のほうからクリック音がしたので見ると、チョウが飛びながら出していたそうです。これはカスリタテハHamadryas sp.というチョウで、英語ではcrackerとかclicking butterflyといい、音を出すことで有名です。
カスリタテハの一種


★夜のチョウ

 ある夜、ドイツのビーレフェルト大学から来ていた友人が「4本足の面白いガが灯りに来ていた」といって、地味なグレーの地に白い斑点のある翅を開き、胸部を反らせた不思議なとまり方をしている虫をプレゼントしてくれました。これは実はガではなく、夜行性のチョウであるシャクガモドキの一種Macrosoma hyacinthinaで、まだその生態や行動には不明の点も多いチョウです。オスは前肢が長く発達していてその先に房状の毛を持ち、普段は折り畳んでいるため、4本足に見えます。この種以外に、M.semiermisもよく見ることができます。小さくて一見地味なチョウですが、灯火の前をひらひらとはかなげに飛んでいる様子は、とても印象的です。
シャクガモドキの一種
Macrosoma semiermis
のメス


★美しい昼のガたち

 6月のある午後のこと、フィールドワークの帰り道に目の前をグリーンの金属光沢を煌めかせながらふわふわと飛ぶものがいました。最初、アゲハチョウだと思ったのですが、よく見ると昼行性のガであるウラニア Urania sp.でした。このガは大規模な渡りをすることで有名で、パナマでは毎年9月から10月にかけて、ウラニアの渡りが見られます。それにちなんで、パナマでは9月は通称「チョウの月」というそうです。 1995年の渡りは25年に一度という大規模な渡りだったそうで、ガツン湖の上やガンボアにあるパイプライン道路を、大量のウラニアが飛んでいたということです。
 また、新熱帯特有の美しいガとして、カストニアCastnia sp.がいます。これは、一見チョウそっくりのガで、初めてこのガがとまっているのを見たとき、私はタテハチョウだと思ったのですが、よく見るとし っかりした肢が6本あるし、胴体はスズメガのように太く、カストニアであることがわかりました。


★灯火にやってきたガ

 建物の周囲にある灯火は、一応、虫が来にくい色になっているものの、ヤママユやスズメガ、ハチのようなカノコガなどのさまざまなガがやってきました。中でも印象的だったのが、オヒキヤママユCopiopteryx semiramisです。このガは、後翅に長い尾状突起をもっていて、ひらひらと優雅に尾状突起を翻しながら飛ぶ姿は本当に美しいものです。また、夜行性のツバメガがやってきたこともあります。昼行性のツバメガの ように、金属光沢の派手な美しさはありませんが、茶色と赤褐色の渋い色合いの美しいガです。








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