鳴門生徒指導研究第30号(2021)
Journal of Naruto School Guidance and Counseling,Number 30,2021,October,ISSN 0917-5180

ここでは,学会誌「鳴門生徒指導研究」第30号の論文のタイトル(英文タイトル)・著者名、要約、キーワードを掲載します。


日本語・英文タイトルと著者名および要約
(1)2020年の世界の不登校研究の概観−ERICおよびPsycInfoの文献から−
佐藤 正道
A Review of the Studies about Non-Attendance at School, School Phobia, and School Refusal in the World (2020):SATO Masamichi
要約:
日本の不登校の問題を考える上で,常に世界の研究に目を向け続けることは必要である。筆者は1980年から1990年までの研究の概観を行い,その継続研究として1991年から2002年まで,および2011年はERICおよびPsycInfo(PSYCHOLOGICAL ABSTRACTS)の,2003年から2010年まではPsycInfoの,2013年と2014年はERICの,さらに2015年からはERICおよびPsycInfoの不登校との関連が考えられるキーワードschool attendance,school dropout,school phobia,school refusalを持つ文献を分類してきている。その継続研究として2020年はERICおよびAPA PsycInfoの文献52件について取り上げ分類し検討を加えた。
Key words:school attendance, school dropout, school phobia, school refusal

(2)RTI モデルに基づく平仮名読み支援の実践的研究
粟田 のり子
A Practical Study of Hiragana Reading Support based on RTI Model:AWATA Noriko
要約:
小学生を対象に,RTIに基づいた平仮名の読みの指導を実施し,検証を行った。第一段階では,アセスメントに基づいた読む力をつけるための国語科授業を計画し実践した後,さらなる支援が必要な児童を特定した。第二段階では,読みに困難さを抱える児童に対してTTによる個別支援を通常学級で実施した。第三段階では,特別な指導が必要な児童に対してLD-SKAIPを用いた認知特性と学習達成状況についてのアセスメントを踏まえた指導を実施し一定の効果がみられた。以上の実践から,RTIモデルを用いた平仮名読みを向上させる支援は,読みに困難さを抱える児童に対して継続的かつ効果的な支援になることが示唆された。
キーワード:RTI,平仮名,読み,LD-SKAIP

(3)特別活動を要としたキャリア教育の充実に向けた実践研究
岡田 康孝
A Practical Research on Career Education with the Primary Focus on Special Activities:OKADA Yasutaka
要約:
本研究は,特別活動,特に学級活動(3)を要としたキャリア教育年間指導計画を立案・実施することで,児童の基礎的・汎用的能力の向上を目指した実践報告である。
 キャリア教育の実践上の課題として,目標設定の困難さ,カリキュラムマネジメントの必要性,学級活動(3)の指導内容と指導過程の精緻化を取り上げた。目標設定においては,4つの領域からなる育成すべき基礎的・汎用的能力の重点化について,質問紙等による実態把握をもとに,学校教育活動全体で意識する目標として設定した。カリキュラムマネジメントについては,教科・領域ごとに重点目標と関連の深い内容を洗い出し,学級活動(3)を要として教科横断単元的に指導の繋がり持たせるよう配置し実践した。学級活動(3)については,内容と指導過程を精緻化し,実践した。質問紙調査,児童の基礎的・汎用的能力は事前事後間で高い値を維持したが,年間計画や指導方法についてさらに検討すべき課題も残した。
キーワード:キャリア教育,学級活動(3),基礎的・汎用的能力

(4)Tier2を細分化した三層介入モデル(TIMST)の効果−過剰適応傾向が疑われる子どもを対象にした事例を通して−
小西 一博
The Effect of Three-Layer Intervention Model (TIMST) which Subdivided Tier2: Through the Case Study for the Child with Suspected Over-Adaptive Tendency:KONISHI Kazuhiro
要約
問題行動を呈する子どもへの支援システムとして,文部科学省による「生徒指導提要」におけるTier2を細分化した三層介入モデル(Three-layer intervention model which was subdivided Tier2:通称,TIMST)を考案した。本研究では,TIMSTの構造を示し,ある肢体不自由児に対してTIMSTによる介入を行うことによって,過剰適応傾向が疑われる自我状態に変化が生じるかについて検討することを目的とした。本事例では,第1層支援ではストレスマネジメント教育,第2層支援では感情表出トレーニング,第3層支援では行動理論をベースにした複合的アプローチを導入し,3つの多層支援を実施した。エゴグラムの結果から,対象児の心的エネルギーのレベルに変化が生じ,ものの考え方や捉え方がより柔軟になったと考えられた。このことから,本研究は一事例での取り組みではあるが,TIMSTに基づいて段階的に介入することが,我が国の生徒指導や特別支援教育の在り方に有効な手立ての一つとなる可能性が示唆された。
キーワード:TIMST,3つの多層支援,二次的な援助を必要とする子ども

(5)肢体不自由特別支援学校への異動に伴う教師の適応に関する研究−当事者による手記分析を通して−
小西 一博
Study About the Teacher's Adaptation Transferred to Special Support School for Children with Physical Disabilities: Through the Analysis of the Notes Written by the Transferred Person:KONISHI Kazuhiro
要約
本研究では肢体不自由特別支援学校に異動することになった当事者による手記分析を通して,赴任校に適応するための事項や教師の心理的変容について検討した。その結果,次のことが明らかになった。1)ネガティブ感情を抱く要因として「学校運営」,「教職員」,「子ども」,「授業」が挙げられる。2)肢体不自由特別支援学校に適応していくためには,教職員との人間関係を円滑に行うことや肢体不自由特別支援学校の文化に合った考えに転換していくことが重要である。3)異動当初はネガティブ感情を多く抱くが,次第にネガティブ感情は減少していき,ポジティブ感情が増加していく。4)適応曲線は緩やかなW字形を描き,気分を変動させながら適応が進行する。加えて,ネガティブ感情を抱く要因にもポジティブ感情を抱く要因にも「教職員」というカテゴリーが見出されたことは注目すべき点である。このことから,異動先の教職員とうまくやっていけるかどうかが適応を左右すると考えられた。
キーワード:教師の適応,当事者研究,手記分析,肢体不自由特別支援学校

(6)小学校1年生がもつ就学前後における家族イメージの違い−動的家族画と回想動的家族画に見られる描画特徴に着目して−
小西 一博
Differences in Family Image of First Graders Before and After Entering Elementary School: Focusing on the Drawing Features Found in KFD and RKFD:KONISHI Kazuhiro
要約
本研究では就学前後における家族イメージについて小学校1年生が描くKFDとRKFDを用いて,「描画様式」および「人物像の行為」という2つの観点から比較検討した。その結果,入学前後における描画様式の出現に違いが見られなかった。KFDとRKFDの約8割に「区分・包囲」がみられ,家族成員間の不調和を暗示させるような描画様式が確認されたが,家族内の相互関係には大きな変容がないと読み取ることができた。「人物像の行為」に関しても就学前後における家族成員に対するイメージの相違を見出すことはできなかった。このことから,子どもが抱く父親や母親,本人のイメージはあまり変化しないと考えられた。一方,描画で表現された行為の種類数が父親,母親,本人のすべてにおいてRKFDよりもKFDの方が多いという傾向が認められた。したがって,両親や自己に対する家族内でのイメージは,やや広まることがいえる。
キーワード:動的家族画,回想動的家族画,小学校1年生,家族イメージ

(7)小学校における「心が動く読書活動」の推進
三ツ橋 理恵 

Promotion of Emotional Reading Activities in Elementary School:MITSUHASHI Rie
要約
 本実践研究では,小学校における児童の深い体験としての読書活動を「心が動く読書活動」と定めた。そして,「心が動く」ことを,知情意の観点から,「言葉・語彙を豊かにすること」「関心・意欲を高めること」「思考・表現を深めること」の3つの資質・能力につながることとして捉え,読書活動を実践した。
 具体的には,「国語科の授業における取組」「学校図書館における取組」「家庭・地域との連携による取組」において様々な読書活動を工夫・展開した。
 検証は,それぞれの取組における児童の姿の観察や提出物・アンケートの分析等に基づいて行った。
 実践研究を通じ,各取組における様々な工夫の有効性を確認できた。また,児童が読書に関心・意欲を抱いたり楽しんだりする様子や,読書習慣が定着し始める姿も確認できた。
キーワード:読書活動,心が動く,国語科授業,学校図書館,家庭・地域との連携

(8)小学校における道徳科・生活科の充実をめざして−地域や世間との関わりを通して−
一宮 由果・阿形 恒秀
Looking Toward the Enrichment of Moral Education and Life Science in Elementary School: Through Involvement with the Community and the World:ICHIMIYA Yuka,AGATA Tsunehide
要約
 本実践研究は,地域が持っている知恵(地域知)と世間が持っている知恵(世間知)を教育活動に取り込むことで,学校で身につける知恵(学校知)を深めることを目的としたものである。また,地域社会と学校が連携して教育に関わっていくことは,少子高齢化・人口減少社会において,今後さらに重要な役割を果たすと考えられる。実践授業では「地域の昔話(説話)」「地域の方の戦争体験」を教材化したり,「フウセンカズラの種のプレゼント作り」の活動に取り組んだ。児童との関わりの中で起こった個別具体的なエピソードを分析した結果,学習に取り組む中で,あるいは学習を振り返る中で,児童の心が大きく揺さぶられたことがわかった。地域から学ぶことの意味とは,そこに暮らす血の通った人間の実体験から学ぶことであり,語り継がれてきた伝統や人々の願いを子ども達が引き継ぐことである。
キーワード:地域知,世間知,説話,戦争体験,交流

(9)小学校での効果的なチーム支援を目指したケース会議システムの開発
掛水 久仁子・小坂 浩嗣
Case Conference System for Support Team on Elementary School:KAKEMIZU Kuniko,KOSAKA Hirotsugu
要約
本実践研究では,通常の学級における多様なニーズをもつ児童への効果的支援を目指し,学級や児童に対するアセスメントシステムの開発と,それを連動させたケース会議の改善による協働的・持続的な支援体制の教育的効果について検証することを目的とした。Z小学校3年生(34名)を協力学級として,X年4月〜X年10月の期間に,本研究で開発したアセスメントシステムとケース会議を連動させた取組を実践した。実践記録の分析結果から,アセスメントシステムの利便性とケース会議の効率性が機能したことにより,学級担任の教育活動に有効であることが明らかになった。今後の課題には,ケース会議の規模が大きくなるほどSCや保護者等との連携・協働を図っていく上で,コーディネーターの人的措置やその分担する役割の明確化を挙げた。
キーワード:チーム支援,アセスメントシステム,ケース会議

(10)小学生の問題行動における担任教師の対応過程
新谷 美晴・川西 智也
The Process in Which Teachers Cope with the Problem Behaviors in Elementary School Students:NIIYA Miharu,KAWANISHI Tomoya
要約
 近年,問題行動(暴力・いじめ等)の低年齢化が進んでおり,小学校においても生徒指導の重要性が増している。そこで本研究は,担任経験のある小学校教師7名を対象に問題行動を示す小学生の仮想事例を提示して半構造化面接を行い,外部機関との連携に至るまでの担任教師の思考プロセスを検討した。修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにより面接の逐語記録を分析した結果,担任教師は児童や保護者,他の教師との関係性に配慮しながら問題行動に対応していることが示された。また,担任を中心とした対応からチーム学校としての対応や外部機関との連携に至る過程には,いくつかの阻害要因があることが示された。チーム学校としての対応を強化していくためには,管理職のリーダーシップのもと,担任が援助要請をしやすくなる職場風土を構築していくことが望まれる。また,外部機関との連携を促進するためには,外部機関の専門性の周知や,学校と外部機関との定期的な交流が必要であると考える。
キーワード:小学校,問題行動,生徒指導,外部連携



このページに掲載された内容および原著論文はすべて鳴門生徒指導学会(THE NARUTO ASSOCIATION OF SCHOOL GUIDANCE AND COUNSELING)に帰属するものである。

Copyright 2000-2021 Naruto Association of School Guidance and Counseling:Last Updated 2021.11.02