鳴門生徒指導研究第29号(2020)
Journal of Naruto School Guidance and Counseling,Number 29,2020,October,ISSN 0917-5180

ここでは,学会誌「鳴門生徒指導研究」第29号の論文のタイトル(英文タイトル)・著者名、要約、キーワードを掲載します。


日本語・英文タイトルと著者名および要約

(1)2018年の世界の不登校研究の概観−ERICおよびPsycINFOの文献から−
    佐藤 正道
A Review of the Studies about Non-Attendance at School, School Phobia, and School Refusal in the World (2018):SATO Masamichi
要約:
 日本の不登校の問題を考えるうえで,常に世界の研究に目を向け続けることは必要である。筆者は1980年から1990年までの研究の概観を行い,その継続研究として1991年から2002年まで,および2011年はERICおよびPsycINFO(PSYCHOLOGICAL ABSTRACTS)の,2003年から2010年まではPsycINFOの,2013年と2014年はERICの,さらに2015年からはERICおよびPsycINFOの不登校との関連が考えられるキーワードschool attendance,school dropout,school phobia ,school refusal を持つ文献を分類してきている。その継続研究として2018年はERICおよびPsycINFOの文献51件について取り上げ分類し検討を加えた。
Key words:school attendance, school dropout, school phobia, school refusal

(2)2019年の世界の不登校研究の概観−ERICおよびPsycINFOの文献から−
   佐藤 正道
A Review of the Studies about Non-Attendance at School, School Phobia, and School Refusal in the World (2019):SATO Masamichi
要約
  日本の不登校の問題を考えるうえで,常に世界の研究に目を向け続けることは必要である。筆者は1980年から1990年までの研究の概観を行い,その継続研究として1991年から2002年まで,および2011年はERICおよび PsycINFO(PSYCHOLOGICAL ABSTRACTS)の,2003年から2010年まではPsycInfoの,2013年と2014年はERICの,さらに2015年からはERICおよびPsycInfoの不登校との関連が考えられるキーワードschool attendance,school dropout,school phobia ,school refusal を持つ文献を分類してきている。その継続研究として2019年はERICおよびAPA PsycInfoの文献50件について取り上げ分類し検討を加えた。
Key words:school attendance, school dropout, school phobia, school refusal

(3)就学前後における家族システムの変化に関する研究−小学校1年生が描く動的家族画と回想動的家族画による分析−
   小西 一博
Study on changes in family system before and after attending elementary school ―Analysis of KFD and RKFD drawn by first graders―:KONISHI Kazuhiro
要約
 本研究では就学前後における家族システムがどのように変化するかについて小学校1年生が描くKFDとRKFDを用いて検討した。その結果,家族のまとまりに関しては変容が生じないものの,家族内で指揮を執る家族成員と,子どもとの心理的距離が近い家族成員において変化することが明らかになった。就学する前は,子ども中心の家族形態であり,子どもが家族内での中心的人物として位置付いていることが見出された。しかし,就学した後は子どもに替わって母親が家族のリーダー的存在となり,優位な立場になるという変化がみられた。また,子どもとの心理的関係においては,就学前の子どもは特に父親に対する親近さを抱き,友好的な関係であるが,就学後はその対象が母親に移行する傾向にあることが明らかになった。
キー・ワード:動的家族画,回想動的家族画,小学校1年生,家族システム

(4)主体的な気づきと対話を重視した小学校道徳科の授業改善−哲学的・宗教的思索を通して−
  嶋 大生・阿形 恒秀
Class improvement of moral studies in elementary school with emphasis on proactive awareness and dialogue −through philosophical and religious thinking−:TAKASHIMA Hiroki,AGATA Tsunehide
要約
 本実践研究は,小学校高学年の道徳科において,児童が道徳的価値について主体的に思索を深め,児童にとって「好き」「ためになる」「新たな発見がある」道徳科の実現のために,「対話」と「哲学的・宗教的思索」を取り入れた授業実践を行い,その効果について,児童の自己評価の統計的分析と授業の中で生起するエピソードの分析を通じて検証したものである。実践記録の分析から,哲学や宗教の知恵に示唆を得た「発問と問い返しの工夫」,5名程度で円になって話し合う「対話の工夫」,話し合いの活性化を図るために座標軸等を取り入れた「視覚化の工夫」,1時間の学びを焦点化してまとめる「振り返りの工夫」等によって,児童が道徳上の課題を自分事として捉えて思索を深め,建前や空論ではないリアリティのある生き方や価値観を創造していく姿が見られた。「対話」や「哲学的・宗教的思索」が,道徳科における「主体的・対話的で深い学び」の実現のために有効な手立てとなることが,児童の姿に表れていた。
キーワード:哲学的,宗教的思索,対話,問答,リアリティ,葛藤

(5)主体的にチャレンジできる生徒の育成をめざした集団活動の実践
   山村 美奈・大林 正史・小坂 浩嗣
Practice of Group activities for Training of Active Students that can challenge:YAMAMURA Mina,OBAYASHI Masafumi,KOSAKA Hirotsugu
要約
 本実践研究では,公立中学校を研究協力校にお互いがかけがえのない存在として認め合え,様々な集団活動にチャレンジする仲間関係を育むプログラムを開発し,実践によりその効果を検証することを目的とした。実践では,「生徒が所属する集団への安心感を高め,主体的にチャレンジできる集団づくり」を課題に,分団結団式,新入生歓迎球技大会,体育祭の各学校行事に連動させた異年齢集団による分団活動に取り組んだ。その結果,体育祭に向けた分団活動の取組において,プログラムの有効性が示唆された。今後の課題には,@経験学習のサイクルの運用,A様々な教育活動との関連づけ,B生徒の実態に即した活動計画,の3点が見出された。
キーワード:安心感,主体性,チャレンジ,経験学習,分団活動
                         
(6)母親の不安特性が幼児の不安特性に与える影響
  佐々木麻衣・小倉 正義
The Effect of Mother's Anxiety Traits on Infants:SASAKI Mai,OGURA Masayoshi
要約
 本研究では,子どもの感情の中でも不安に着目し,母親の不安特性が幼児の不安特性に与える影響に関して,母親が子どもの前で不安を表現するかどうかによる違いがみられるかを検討することを目的とした。私立幼稚園・認定こども園に通う子どもの保護者を対象に子どもの不安特性,親の不安特性・不安表現に関する質問紙調査を行い,3〜6歳の子どもの母親208名の回答を分析した。その結果,母親の不安特性と子どもの不安特性である「分離不安」「特定の恐怖」との関連は有意であったが,子どもの不安特性に母親の不安表現が関連しているとはいえなかった。本研究の結果から,母親の不安特性と子どもの不安特性の関連は示されたが,母親の不安特性がどのようなプロセスを経て子どもの不安特性に影響するかについては十分な知見が得られなかったため,さらなる検討が必要である。
キーワード:幼児,子どもの不安特性,母親の不安表現

(7)日本におけるセクシュアル・マイノリティ当事者の受容感および自尊感情
  都築 秀器・葛西真記子
Acceptance and Self-esteem of Sexual Minorities in Japan:TSUZUKI Hideki,KASAI Makiko
要約
 今日,性別にとらわれずに自分らしく生きるための多様な性のあり方が見直され,各領域においてセクシュアル・マイノリティへの支援が広がりつつある。反面,セクシュアル・マイノリティ当事者は,周囲の人の無理解や差別,いじめなどから,自らに対しても偏見,罪悪感,将来への不安といった負の感情を持ち,自尊感情を低下させる傾向があるとの主張もある。そこで本研究では,石丸 (2005) の研究モデルを参考に,セクシュアル・マイノリティ当事者の自尊感情に与える影響について,現在の日本における性的指向,性自認別の実態把握を行った。その結果,性的指向は,セクシュアリティに応じた要因を持っている事や,性自認では,性的アイデンティティの問題を他のアイデンティティの問題と同等として認識していること等が分かった。また周囲がセクシュアリティを十分に理解できるかどうかが自尊感情の影響に差を生じさせていること等が確認できた。
キーワード:セクシュアル・マイノリティ,自尊感情,受容感

(8)「多様な学びの場」での教師の教育実践に伴う困難さとその背景要因
  矢野三知代・川西 智也
The Difficulties Experienced by Teachers in Educational Practice in “Diverse Leaning Environment” and Its Background:YANO Michiyo,KAWANISHI Tomoya
要約
 学校現場では特別支援教育からインクルーシブ教育への展開が求められている一方,その教育実践には様々な困難が予想される。そこで本研究では,インクルーシブ教育の実践に伴う困難さとその背景要因について,中学校教師を対象に半構造化面接を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを参考に分析を行った。その結果,教育に伴う子どもや保護者,同僚との関わりなどで生じる困難に,個別の教育支援計画の作成など新たな業務,教師と子ども・保護者間での希望する学びの場のずれ,進路保障の方向性が決まらないなど新たな困難が重なることが示された。その背景として,インクルーシブ教育導入後も特別支援教育がもたらした様々な困難は依然残されたままであり,校内の受け入れ体制の未整備から担任教師が支援の必要な子どもを一人で抱え込まざるを得ないことなどが示された。今後のインクルーシブ教育の展開には,担任教師と同僚との関係を深めていくこと,管理職のリーダーシップに基づく研修機会の確保や校内支援体制の構築,援助チームや保護者との連携強化が必要と考えられる。
キーワード:インクルーシブ教育,特別支援教育,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ

(9)リーダーシップをもった生徒を育成する心理的アプローチの効果に関する研究−五感イメージトレーニングとリフレーミングを活用して−
  吉村 浩・葛西真記子
A Psychological Approach of Fostering Leadership among Junior High School Students: Using Five Senses Image Training and Reframing Techniques:YOSHIMURA Hiroshi,KASAI Makiko
要約  
 現在の日本の若者・子どもたちについて,他者への思いやりの心や人間関係を形成する力の低下,正義感の低下,基本的生活習慣の乱れ,自制心や規範意識の低下などの現状が示され,「生きる力」の育成(文部科学省,2017)を確実なものにしていく必要があると考える。 本研究では、清水(2011)が示す@意志力,A知力,B感情力,C体力,D技術力,E交信力,F社会経営力を「7つの生きる力」ととらえ,これらを総合的なものに変えていく力を持った人をリーダーととらえ,その育成に焦点を当て研究した。リーダーシップを持った生徒を育成する方法として五感イメージトレーニングとリフレーミングの心理的アプローチを活用し,その有効性を検証した。プログラム実施の結果,リーダーシップ測定尺度得点の全項目,P因子,M因子,目標・計画因子,柔軟性因子,主体性因子,他者援助・感謝因子,チームビルディング因子による分散分析を行った結果,すべての因子において,交互作用の主効果が有意であったことから,今回のプログラムは有効であったと考える。特に五感イメージトレーニングによってリーダーシップをとっている感覚を味わえたこと,また,現在の位置から未来の位置に移動し,未来の自分や現在の自分を客観的に見ることで,課題が明確になり,解決策を見いだすことができるようになったことが,リーダーシップの行動につながったと考える。つぎに,リフレーミングを実施することで,柔軟な考えができるようになり,さらに目標達成のための物事や出来事に対する前向きな捉え方ができるようになった。以上のことから今回のリーダーシップ育成プログラムは,有効であったと考える。
キーワード:リーダーシップ,五感イメージ,リフレーミング

(10)SNS・いじめ問題を考える中学生の主体的活動
  横山 鉄也
Autonomous Campaign of the Junior High School Students against SNS and Bullying Problems:YOKOYAMA Tetsuya
要約
 学校が直面する課題として,いじめ問題やSNS問題(ネット上のいじめ問題,不適切な画像や動画の投稿等)があげられる。SNSの適切な使用について,筆者が所長を務めた徳島市補導センターでは,子どもたち自身がルールを決めることができれば生徒自身がより自分のこととして問題を捉えるようになるではないかと考えた。そこで,生徒が中心となって運営し討議を行う中学校生徒会議の開催に取り組んだ。そして,携帯電話・スマートフォンの使い方やいじめ問題について出された意見や問題点を整理して,参加した各校の代表生徒が自校へ持ち帰り発表・啓発を行った。  その後筆者が校長を務めた中学校においては,生徒会が主体的にSNS問題やいじめ問題に取り組むことを通じて,学校の活性化を図った。また,他校の生徒会との交流活動を通じて,自己有用感やコミュニケーション能力を育むことができた。
キーワード: SNS,いじめ,ルール,中学校生徒会議,生徒会交流


このページに掲載された内容および原著論文はすべて鳴門生徒指導学会(THE NARUTO ASSOCIATION OF SCHOOL GUIDANCE AND COUNSELING)に帰属するものである。

Copyright 2000-2020 Naruto Association of School Guidance and Counseling:Last Updated 2020.11.09