所長だより028 「上越教育大学訪問」

2015年10月7日

 所長だより003でご紹介したように、今年度から本学は、宮城教育大学・上越教育大学・福岡教育大学との4大学による協働参加型の「いじめ防止支援プロジェクト(BP プロジェクト)」を展開しています。このプロジェクトの一環として、10月4日に、上越教育大学において、上越教育大学の主催による「いじめ等予防対策支援プロジェクトフォーラム」が開催され、生徒指導支援センターからも、私と竹口研究員、池田講師が参加しました。私と竹口研究員は、初めての上越教育大学訪問でした。

 鳴門から上越までは、高速バス・JR特急・JR新幹線を乗り継いで、6~7時間ほどかかるので、私たちは前日に直江津のホテルに投宿しました。その日の夜は、上越教育大の先生に教えていただいたお店で、地元のおいしい料理を味わいました。タラの白子、ノドグロの塩焼き…、どれもが初めて食したもので、“今までは知らなかった特有の”味に感激しました。また、私はお酒はあまり飲まないほうで、特に日本酒は苦手でしたが、上越教育大の先生に差し入れしていただいた「鶴齢」というお酒を一口だけいただき、その“何の抵抗もなくすーっと入ってくる”のど越しの良さに、初めて日本酒をおいしいと感じました。

 翌日のフォーラムでは、上越教育大の3人の先生方が、いじめに関する研究発表をしてくださいました。

 山田智之先生は、「キャリア教育とシチズンシップ教育でいじめを予防する」のテーマで発表してくださいました。いじめ行為の根底には、偏見、無知から派生する恐怖、人間が本来持つ社会的欲求などの「差別意識」があるのではないかというご提言から、単なる「いじめ対策論」ではない「いじめ人間論」を考える上での大きな示唆を得ることができました。

 稲垣応顕先生は、「いじめ防止に活用する指導行動の理論と実際」のテーマで発表してくださいました。その中で、稲垣先生が作成された「いじめ発見チェックリスト」が興味深く思いました。このようなリストは他にもときどき見受けられますが、稲垣先生は、大人(教師)目線だけではなく、いじめの兆候が児童生徒からはどのように見られているかを確かめるために、250名の中学生の意見を参考にされました。その結果、リストには、「給食で、人気のないメニューが多く盛られている」「ふざけているときに、その場にいない“その子”の名前やニックネームがよく出てくる」など、言われてみるとなるほどと思える項目が含まれており、子どもたちの世界のリアリティを重視するというご姿勢(生徒指導支援センターの末内准教授も「子どものことは子どもに聞く」という態度を大切にされています)が強く印象に残りました。

 高橋知己先生は、「事例に基づくいじめの様態と学校対応の分析」のテーマで発表してくださいました。髙橋先生も、実際の事例に基づいていじめ問題を研究するということで、学生・院生から210のいじめ事例を集め分析されました。そして、「ターゲットにされるのは『変だ』『不潔』『暗い』『臭い』という理由づけをされる子である」「中学校では担任+それ以外の教員が対応したときの改善傾向が高い」などの知見を得られました。組織的な対応の大切さがよく言われますが、高橋先生のご発表は、「学校がチームとして対応する」ことの大切さを裏付けるものだと思いました。

 いずれの先生方のご発表も、“今までは知らなかった特有の”観点からのご研究であり、その成果は“何の抵抗もなくすーっと入ってくる”腑に落ちるものでした。久しぶりに、たくさんの刺激をいただくエキサイティングな研究会を経験することができました。そして、4大学による協働参加型のプロジェクトの意義と可能性を改めて確かめることができました。本学は、これからも、上越教育大学・宮城教育大学・福岡教育大学とのシナジーを大切にしながら、いじめ問題に本気で取り組んでいきたいと考えています。

 

  シナジー(Synergy)…“協働作用”のこと

  協力した活動では、一人では決して思いつかなかったアイデアが出たり、

  自分だけだと抜けられなかったところから大きく踏み出せたり、

  グループの相互作用の中で、大きな力が生まれてくる

  ≪中野民夫2001)「ワークショップ-新しい学びと創造の場-」≫